アニキ


俺のダチてっちんのアニキは男の中の男だ。
柔道五段、空手三段、合気道三段、剣道二段、英検五級。
弱きを助け、強きをくじく!
ついこの前も、悪い野郎どもにからまれていた女子高生を助けたらしいぜ。
相手のパンチをかわして、大外刈りだってよ。かっけえ。
てっちんが恥ずかしそうにみせてくれた写真なんかさ、まじ男だよ。
角ちゃんみてえな太ってえ筋肉しててさ、身長百七十ちょいのてっちんが小さくみえるんだぜ。
おまけに笑顔がすがすがしくてさ。
よし、俺もいい笑顔で挨拶しなくっちゃなって気合もはいるもんよ。
「さとやん、帰るなら今だよ」
「何いってんだよ。俺はアニキにご挨拶すんだよ」
「・・・・・・はあ〜」
アニキにほれ込んでからはや一ヶ月。ついに本人に会う日がやってきた。
社会人のアニキと小さなマンションの五階で二人暮ししてるてっちんは、俺の熱烈な「アニキに会いてえ」攻撃に折れたわけ。
てっちんが水色の重そうなドアを開けた。
「ただいま〜。さとやん連れてきたよ」
「おじゃましまっす」
てっちんにくっついて部屋にあがると、すぐ男二人の生活にしちゃあ綺麗に片付いているリビングが見えた。ちょっと意外だな。
しかも、バタバタとスリッパの足音がして、綺麗な女の人が顔を出した。
「いらっしゃい〜」
あれあれあれ? アニキと二人暮しじゃなかったのかよ。
こんな美人さんがいるなんてよ。まさか、アニキの彼女か? 
女性ファッション誌に出てそうな、めっちゃいいスタイルしてんし。きいてねえ〜。
「今ねえ、クッキー焼いてるんだ。もうすぐできるけど、よかったら食べない?」
「ぜ、ぜ、ぜ、ぜひとも頂きます」
「お、良かった良かった。テツのヤツ、『おまえの焼いたクッキーなんか絶対くわない!』って言うんだよ。ひどいと思わない?」
「くいたくねーもん」
「ほらね」
なんでくわねーんだ、バッキャロー!! もったいねえ。
「あ、そろそろだな」
カワイイ笑顔で焼きたてのクッキーを皿にもりつける彼女さん。
やべ、一目ぼれしそう。
「さとやん、すわりなよ」
なんか不機嫌なてっちんと並んでソファにすわったところへ、彼女さんがクッキーを持ってきた。いいねえ。
「じゃ遠慮なくいただきま〜す」
ぱくり。
うんめえ!
「これ売れますよ、マジ」
「ありがとう。さ、食べて食べて」
俺はどんどん食べた。高校生の食欲恐るべし。うまいもんには歯止めがきかないっす。ぺろりと二十枚ほどを完食。
「おまえもう帰れよ」
てっちんがにらんできた。
「え、なんでだよ。来たばっかじゃん」
「なんででもいいんだよ。おいしいもん食ったし満足だろ」
てっちんは俺を追い立てるようにぐいぐい押してきやがる。
「テツ!」
「うるせー。もうさとやんは帰るんだ!」
なんだそれええ!!
ありゃああ〜。
どすん。
ソファから落とされた。
「やっぱだめだ! さとやんを兄さんに会わせるの無理」
あっという間に、てっちんに玄関までひっぱっていかれちまった。
俺なんか悪いことしたかよ?
「ごめん!」
バタンと閉まるドア。外に追い出された俺。
しくしく。
てっちんのバカ。俺はひとり寂しくエレベータに乗るぜ。乗っちまうぜ?
お見送りにもきてくれないのね。ひどいわ。
五階分、孤独に下ってゆくさ。ふふん。
「まってえ〜」
エレベータを待ってたら、彼女さんが走ってきた。
やっぱかわいいなあ。
「ごめんね。テツが悪いんじゃないんし、君が悪いわけでもないんだ。私が悪いんだから。許してやって」
「いいっすよ、気にしてませんから」
「本当? ごめんね」
「そうだ、あの一緒に写真とりません?」
カメラつきケータイをケツポケットから引っ張り出した。
「いいよ」
二人並んでカシャ。やったぜ。
「じゃ、また」
「うん、またね」
うれしくて、とれた写真をろくに見ずにポケットにしまって、エレベータに乗った。で、ひとりになってからニヤニヤしながら見てみると・・・・・・!!
アニキ!!?
俺の隣でVサインつくってるたくましい男。
うおおお、呪いか!?
恐怖。こええから、一階に到着するなり、五階を押して戻ることにした。
こりゃ、彼女さんにいわなきゃいけねえよ。
アニキの生霊がついてるってよ。
ちーん、五階到着。
「もう来ないでっていってるでしょ!」
「かずこ、もう一度やりなおそう」
「いや!はなして」
なんだなんだ恋愛のもつれか?
てっちんの隣の部屋じゃん。うわあ、もみくちゃ。
ばあん!
てっちんちのドアが開いて、彼女さんが飛び出してきた。
「助けて!!」
かずこさんがいう。
「わかりました」
彼女さんはにっこりわらって、指をならした。
かずこさんにまとわりついていた男の袖を取ると、あっさり決めた。
大外刈り。一本!!
男は撃沈した。
「本当にいつもすみません。こいつ性懲りもなく来るんです」
「いつでも言ってくださいよ」
ハハハと彼女さんは笑った。
「兄さ・・・・・・」
出てきたてっちんが、俺をみつけて絶句した。
「おっと、さとる君。どうした、忘れ物?」
彼女さん・・・・・・いや、アニキなのか・・・・・・。
さっぱりわかんねえ。
なんかわかんねえけど!
「俺、惚れちまいました!!」
いったとたん、てっちんがぺたんと座り込んだ。
微笑むかずこさん。
「シュンさん、またファン増やしちゃったみたいですね。ウフフ」
「えええ」
アニキは照れくさそうだ。ああ。そんなあんたもかわいいぜ。


俺はアニキファン第二十五号になった。
レンズを通すとなぜか筋肉むっきん男の姿になるシュンさん。もち性別は男なんだが、愛らしいよ。
「だから会わすのいやだったのに」
愚痴るさとやんは、アニキファン第一号。
実はアニキのクッキーこっそり食べてやがるんだぜ。へへ。



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