あたしの背中、ぼくの背中

 あたしは、目つきが悪い。
 目が悪いから仕方ない。
 テレビを横目でみる癖がぬけないから仕方がない。
 そういって、開き直ってきた。
 にらんでもいないのに、「睨んだ」とかいわれても、「睨んでないよお」って笑って、それで終わりだし。
 でも、好きなひとができて、困った。
 気がつくと、彼の姿を目で追いかけてる。
 数学の教科書をぺらぺらとめくる彼。給食の準備をする彼。友だちと笑いあっている彼。
 そう、あたしは、ずっと彼を睨み付けてることになる。
 そしたら、逆に嫌われるよなあ。
 思った瞬間から、彼のことが見られなくなった。
 今では、ちらっと背中を見るくらい。
 なんだか寂しいけれど、これで十分。


 いつからだろう。もう思い出せない。
 彼女がぼくを睨むようになって、そのうちに無視されるようになった。
 嫌われたらしい。
 いや、気づかれたのか?
 ぼくが彼女の横顔をちらちら見ては、小さな幸せを感じていたことを。
 やっぱそれって、変態っぽいのか……。
 今では怖くて、時々、彼女の背中をみるだけ。
 勇気を出して告白しようと何度も思うけれど、いつも躊躇してしまう。
 でも、背中を見ているだけじゃ、寂しいよ。


 教科書を忘れて、放課後の教室に取りに行った。
 由梨がベランダに一人で立っていて、真っ青な空を見上げていた。どうせまた、近藤君のことでも考えてるんだろう。
「ゆーりー!」
 大きな声を出して呼びかけたとたん、教壇から誰かが転げ落ちた。
 膝をうったらしく、痛そうにうめきながら、そいつは顔をあげた。
 近藤君だった。
 ベランダに立ったまま、こちらを振り向いた由梨が、近藤君を見つけて固まる。
「あんた、何してたの?」
 わたしが不躾にいったら、近藤君はぱっと顔を赤らめた。
「そ、空が綺麗だったから……」
 ははあん。
 この嘘つきめ。
「じゃ、ベランダで見りゃいいじゃない」
 強引に近藤君を引っ張っていって、ベランダに押し出した。
 膝が痛そうで足をひきずってたけど、そんなん知らんわ。
 がらがら。ぴしゃん。
 はい、閉めました。
 ガラス戸閉めちゃいました。
 お二人で、ベランダで、お空の観賞をしたまえ。
「さちー! こらー!」
「た、田島さん。あけてくれー」
 まったく、おあついね。
 じゃ、わたしはおいとまするよ。
 イッヒッヒッヒ。


 近藤君と二人きり、ベランダにとりのこされた。
「ど、どうしよ。さちのバカ……」
 わたしはふと、近藤君をみてしまった。
 しまった。


 また睨まれた。
 気まずいなあ。
「空、綺麗だね」
「……そうだね」
 か、会話しちゃった。
 てか、なんだこのつまらん会話は!
 青すぎる空が目に痛い。
 会話が心に痛い。
 なんか、ぼく、ベランダから飛び降りたいくらいしんどいです。
「好きだっ」
 ぼくは空にむかって叫んだ。
「由梨、大好きだあああああ」
 まじ、寒いな。


 え、近藤君。
 今、なんて言ったの?
 恥ずかしい。
 もうベランダから飛び降りたいくらい恥ずかしい。


 あら、二人の姿がみえないぞ。
 どこにいったんだ?
 もうそろそろ。戸をあけてやろうと思って戻ってきたのに。
 おかしいな。
 まあ、いっか。

終わり


☆☆TOP☆☆HIDEOリスト☆☆