社長に乾杯

 俺の社会人一年目も、もうすぐ終わる。
 この一年を振り返ると、本当にこの会社に入社してよかったと思う。大企業ではないけれど、やりがいのある仕事といい仲間に恵まれている。俺はラッキーだ。
 今日は忘年会だ。みんなそろって事務所で闇鍋をすることになっている。俺は控えめに、ホワイトアスパラを持ってきてみた。
 あと社長が到着すれば、忘年会がスタートする。みんなどんな食材を持ってきたのだろう。
 わくわくしていると、何の前触れもなく、ドアが開いた。
 そこに立っていたのは、特攻服に身を包んだ社長だった。
「野郎どもおおお 」
 いつも穏やかな社長が叫んだ。「準備はいいかあッ」
「いつでもいけます!」
 一年先輩の柳沢さんが立ち上がったかと思うと、スーツとシャツを脱ぎ始めた。なんとその下に、社長とおそろいの特攻服を着込んでいたのだ! いかにも暴走族が来ていそうなアレだ!
「感無量です」
 何が感無量なのか、部長は涙を流しながらスーツを脱いだ。やっぱり、特攻服が下から現れた。
 あれよあれよという間に、俺の同期を除いて全員が特攻服に変身してしまった。
「さあ!」
 社長が真新しい特攻服を渡してきた。
 これを着ろということだろう。
「キミたち新入社員も、もう立派に活躍している。今日、晴れて正式に我らが『南風特攻隊』に入りたまえ!」
 み、南風特攻隊……。神風じゃなくて、南風? しかも軍服じゃなくて、族の特攻服?
 すげえええええ! なんじゃこりゃあッ。
「入ります!」
 同期のひとりが特攻服に袖を通したのを皮切りに、次々と入隊してゆく。
 俺も入隊しないわけにはいくまい。
「光栄であります」
 軍隊口調でいって、俺も特攻服姿になった。
 はっきりいって、勘違いヤロウのコスプレみたいだ。
「では、攻撃を開始する!」
 鍋のガスコンロが点火された。みんなどんどん食材をぶちこんでゆく。
 俺もホワイトアスパラを投げ入れた。


 やりがいのある仕事といい仲間にめぐまれて。俺は本当にラッキーだ。


終わり



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