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ウィルとトーノの大冒険
第一章[2]

 ツェーダの北にある名もなき廃墟。駆け出しの冒険者が多く訪れることから、『初心者のダンジョン』と呼ばれている。出現モンスターも弱ければ、内部構造も全くもって簡素だ。
 ウィルはとりあえず、廃墟近くの小さな村へ向かった。廃墟に入る前の冒険者たちが集まると聞いていたからだ。
実戦経験の浅い自分でも対等に話せる相手がいるだろう。
誰かフェイの情報を持ってないかな。
そうものごとが簡単にいくと思っているわけではないが、多少の期待はある。フェイが冒険者もしくは、その関係の者であるということは、送られてきた手紙から推測できるからだ。ひょっとしたら冒険者の間で有名な人なのかもしれないではないか。
ウィルは酒場のうすっぺらい木製扉の前で深呼吸する。酒場は情報交換の場だ。きりっとひきしまった顔ではいってやろうではないか。「やあ、マスター。フェイって男を知っているかい? 」と格好つけてきく自分を想像して、あまりの似合わなさに一人苦笑する。
「おい。いつまでそこで突っ立っているつもりだ。邪魔なんだが」
「あ……。ごめんなさい」
 唐突に背後からかけられた声に、振り返りながら謝った。
 ウィルからみれば随分大人の雰囲気を漂わせているその男は、にこりともせず店内へ入ってゆく。あわててその後に続いたウィルは、なんとも情けない顔をしたままだった。
 酒場は、ウィルの予想に反してがらんとしていた。テーブル数卓とカウンターがあるだけの殺風景な造りである上、客が一人しいない。あとはマスターらしきつるっ禿げヒゲのおっさんがカウンターの向こうにいるだけだ。 「あんたら、仲間集めかい?タイミング悪いねえ。今さっき大集団をつくって、皆して行っちまったところだよ」
 おっさんは耳の穴を指でほじりながら、さも楽しげに笑った。下唇をやけに突き出し、品のない笑い声をあげている。
 ウィルは正直むっとしたのだが、隣で平然としている男にならって、大人しくこらえた。
「どれくらい前だ? 」
 男は一直線にカウンターにいくと、おっさんの正面にどっかり座り、わざとらしいまでの大きな音をたてて、背中からおろした大剣をカウンターに立てかけた。
「さあ、知らないねえェ」
 おっさんは頼んでもいないオレンジジュースのグラスを男の前に出し、すっとぼけた。
 一人店の隅のテーブル席にいる客もどうやら同じようもてなされたとみえ、不機嫌にイレンジジュースを飲んでいる。
「オレンジか。悪いが俺は柑橘系が苦手でね。おまえ、飲むか? 」
男は嘘か真かそういって、ウィルにグラスを向けた。ウィルは無言でグラスを受け取って、男のすぐ左隣に腰をおろした。
「おまえ、回復系の術はつかえるか? 」
 男はおっさんのほうを向いたまま、ウィルに尋ねてきた。
「一応つかえるけど、攻撃系のほうが――」
「役に立たねえよ」
 あまりの即答に、さすがにウィルも頭にきた。元来頭に血が上りやすいタイプなのだ。
「そっちこそその剣は飾りモンじゃあないの? 」
 子供じみた喧嘩を売ったとたん、男の肘鉄が脇腹にめり込んだ。衝撃と痛みのすさまじさに、椅子から転げ落ちた。ウィルは思い切り、床に尻を打ちつけてしまった。
「何すんだ……よ」
 椅子に這い上がろうとして、椅子のクッションに突き刺さっている短剣が目に入る。はっとした。
「危ねえ、ハゲおやじだ」
 男のほうも椅子から飛びのいており、やはりその椅子には短剣が深々と突き刺さっているのだ。
恐る恐る酒場の隅に目をやると、喉に短剣をくらった死体があった。倒れたグラスからオレンジジュースがテーブルに広がり、ゆるやかに床へ流れ落ちている。
男に肘鉄をもらっていなければ、自分もここで人生のリタイアをしていたことだろう。背筋が寒くなってきた。
 おっさんはでっぷりとベルトの上に乗っている腹をなでながら、ゲヘゲヘいう。 「初心者向けのダンジョンだが、何かあるいけねえだろ? 護身用にその短剣をくれてやるよ」
 感心しない趣向だ。
 しかし、せっかくだから短剣は頂いておくことにして、腰ベルトの隙間に差し込んだ。男のほうは椅子から引き抜いた短剣をあっさり、おっさんに返した。
「余計なお世話だ」
「いらねえのかい? 」
 それには答えず、男は剣を片手に店を出てゆく。
「おい、もう行っちまうまうのかい? 坊や、オレンジジュースが残っているよ」
「いらないよ! 」
 ウィルもそそくさと店を後にした。

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