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ウィルとトーノの大冒険
第一章[6]

一番初めは酒場のマスターに投げた短剣から。次は廃墟の魔物から。再三自分を守ってくれた人間が、今自分の前に倒れている。
 今度はオレが守る番だ。
「終わりにしよう」
 ユルグが炎を作り出す。
「させない!」とリヴがなぎ払い、そのまま斬りかかる。幾多の敵と戦ってきた剣技を、術師にあるまじき速さでかわしてゆくユルグ。少しでも剣が止まれば、炎はトーノに放たれるデあろう。そうさせない為に、リヴは剣を振るい続ける。防戦一方、完全に遊ばれている。
 長くは持たない。その限られた時間でウィルはトーノを助けるため、回復魔法をかけるだろう。それでも自分が手を休めれば、ユルグの魔法でチャラになってしまう。じり貧だがそうするしかない、とリヴは思っていた。それはトーノも同じことだった。
 しかし、ウィルのとった行動はそうではなかった。
「『深淵の碧』!」
 トーノの手に薬草を握らせると、ウィルは呪文を唱え、水の龍を造りだした。
「! 『火炎龍』!」
 とっさにユルグも呪文を唱え、二匹の龍が轟音をたててぶつかり合い、蒸気が周囲を包む。リヴの攻撃も加わり、攻防が逆転、にわかにユルグの眼差しが変わる。
(あの少年――自覚はないかもしれないが――好戦型の人間だったとしたら、俺はやり方を間違えた)
 ウィルは己の回復魔法の威力も、リヴが足に傷を負い、ユルグの動きをとめていられないことも把握していた。それでも一刻も早く回復魔法をかけなければ、トーノは死んでしまうだろう。障害となるのはあの男。ならば一刻も早く殺すだけだ――これが、反射的にウィルの考えたことであった。
「『豪火の番人』!」
 いつしかウィルは得意な炎系魔法で攻撃していた。指に残るあの冷たさを取り消したいかのように。己の怒りを吐き出すかのように、叫ぶように。
 トーノがもし間にあわなかったら……。必ず殺す。殺してやる。殺してやる。きっと殺してやる。  火力は強まり、同じ大きさの炎で打ち消すユルグの顔から遊びの表情が消えた。リヴは最早手を出せないで居る。今や、むしろウィルの炎のほうが危険なのだ。ユルグに接近戦を挑んでいるリヴまで焼き尽くすつもりなのだろうか。不甲斐ないが、離れているほかない。
 そのとき、ぶつかりあう炎の一部が弾け、リヴへと命中してしまった。
「オッ……」
 煙が立ち昇る。リヴの手袋が焼け焦げ、肌が露出する。そこには、最小規模の呪文封じの陣が刻まれていた。ある程度の魔法なら、無効化するくらいはできる。
 ふうっとリヴは息をつく。
(ユルグの魔法を近距離で受けてもいいように彫っておいたんだけど……まさかあの坊や相手に役に立つことになるとはね)
 一瞬ウィルも動揺しなかったわけではなかった。しかし炎は、少しずつ、ユルグのほうが押され始めた。
 怒りにまかせてつかう魔法の威力をユルグは知っていた。大事な人を傷つけられた怒りの大きさなら、特によく知っている。他でもない、それは――。
「……今日のところは、もう止めておくよ。ウィル、君の事を読み違えてしまったからね。今度は一対一で決着をつけようじゃないか」
 ユルグはそういうと爆発を起こした。
 煙が腫れた後には、その姿はかき消えていた。おそらくは割れた窓から外に。ウィルが後を追いかけようとすると、「待って!」とリヴが叫んだ。
「トーノの傷は、とりあえず薬草で止めておいたわ。でも流れてしまった血が多すぎる。ウィル、村まで運ぶのを手伝って頂戴。手遅れにしたくないのなら」
 見ると、トーノの傷が応急手当してある。ウィルが戦っている間に、リヴがやってくれたのだろう。しかしもう、トーノは虫の息だった。我にかえり、あわてて駆け寄るウィル。
「治療ならオレが……」
 と手をかざすが、力がしぼりだすようにしか出てこない。戦っているときは無我夢中でわからなかったが、上級呪文を使いすぎたせいで、ウィルの魔力は底をついていたのだった。
「トーノが……」
「死なせないから手伝ってっていってるのよ。……これ以上、……死なせてたまるもんですか!」
 肩にかけた右手からどんどん生命が抜け落ちてゆくのが伝わってくる。リヴ自身がこの男を死なせたくないと思う理由を考えるには、事態は急を要しすぎていた。

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