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ウィルとトーノの大冒険
第一章[8]

  ヤンドンの入り口はまるで遊園地の入場門のようだ。三人は、「ようこそヤンドンへ」と浮かれた丸字で書かれた門をくぐった。
「オレ、ヤンドンに来るの初めてなんだよ。あ〜すっごくわくわくすんなあ」
 南大陸の中央に位置するヤンドンは、商工業においても文化においても、繁栄している。町は中心から外へと徐々に拡大していったために、雑然として入り組んでいるが、かえって町並みに味が出て活気に満ちている。
「ここで仕事をするにしても、宿は必要だな」
「それなら大丈夫よ。わたしの知人は宿屋の主人だから」
 リヴが先導し、雑踏の中をかき分けて進んでゆく。あまり人の集うところが好きではないウィルがいい加減嫌になってきた頃、ようやくリヴが足を止めて振り返った。
「ここよ」
 周囲と比べてやや地味な木製の看板に、長年の雨風で消えかけた『きりん』という宿名がある。外装からして、寂れた感じがする。
 ぎしぎしと危なげな音を立てる木の扉を押し開けると、中は意外にこざっぱりとしていた。すぐさま客を出迎えにやってきた四十過ぎの男が、リヴをみるなり、「リヴ!」と声を弾ませ、破願した。
「久しぶりね、ロウ」
「久しぶり、じゃあないぞ。まったく。二年も音沙汰なしでひどいじゃないか」
 腰まである髪を背中で三つ編みにしているのが似合っており、声のトーンも割りと高い。宿屋の主人というより、怪しい行商人かなにかだといわれたほうが素直に頷ける。
「ん? そこの二人は今の仲間か?」
「ええ。知り合って一ヶ月もたっていないけどね。なかなか素敵な坊やたちよ」
 ウィルはともかくトーノまで坊や呼ばわりされたのは、プライドが傷つかないでもなかったが、今までになく楽しそうなリヴをみて、あえて許すことにした。トーノは他人の幸せな瞬間に水を指すような男になりたくなかった。
 リヴはヤンドンまでの道中ずっと右肩にかけてきた荷物をロウにバトンタッチし、首を鳴らして右腕をぐるりとまわした。余程重かったらしい。ちっともそんな風に見えなかったが、とウィルもトーノもなんとなく悪いことをしたように思う。
「部屋はシングル三室でいいか」
「シングル一室、ツイン一室にして。そのほうがいいわよね、トーノ」
 リヴは意地悪い笑みを浮かべた。トーノは傍らのウィルを横目で見、リヴを見、やれやれといった顔を照れ隠しにした。
「え、どういうこと? リヴとトーノが一緒がいいってこと?」
「な、何を言い出すのよ、ウィル」
 トーノをからかって喜んでいたリヴだったが、ウィルのとんでもない発言にあわてふためく。
「リヴが一人で、ウィルと俺が一緒の部屋で、と言っているんだ。ウィル。変なこと言い出すなよ。どうして俺がリヴと? ずっと一緒にいたらわかるだろ。リヴは――」
 ユルグのことがまだ好きなのだ、と言ってしまうのはあまりに無神経だ。トーノは口ごもった。
「いやあ、オレはてっきり。ごめん、ごめん。気にすんねえ」
 ウィルは酔っ払いのような口調で言い、へらっと笑った。トーノが一歩退いた。
 やっぱりウィルは寒い奴だ。
「部屋代はお金ができてから払うわ。わたし、ロウの宿代まで踏み倒さないから、安心して」
「それはつまり、すでにどこかで踏み倒しをやってきたと?」
 ロウはニヤリとした。
「あら、悪いこともしないと生きていけないんだぞって教えてくれたのは、あなたでしょ」
 リヴはわざと女らしくウインクした。
「そうだったかな。そういえば、エストのエリザベス薬店から薬草がどっさり届いとるぞ」
 自分に都合の悪い話題を早々に切り上げ、ロウは奥から薬草の小包を運んできた。
「なんか知らんが、手紙もついているようだ」
「手紙? これ、ウィル宛じゃないの」
「オレ?」
 ウィルは、手紙をくれるまめな友達なんていたっけ、と訝しげに、ただのメモ用紙に走り書きしたらしい手紙を手にとった。トーノも横から覗き込む。
「『私はもうしばらくウィルのところへ行かれないようです。かわりにメリルを送りますので、仲良くするように』……? ヘッタクソな字だな」
「何だこれぇ。オレ、こんな字の人に心当たりないよぉ。不気味だ。不気味だ!」
 しかも、仲良くするも何も、メリルの特徴がまったく記されていない。
「エストっていったら、西のダンジョンの近くの村よ。もしかしてフェイから?」
「今までのフェイの手紙と字が違うよ」
 ウィルはきっぱりと否定した。
「代筆の可能性もある。まあ、メリルって奴が来ればはっきりするぜ」
 トーノは言いつつ、ロウを盗み見た。
 三つ編みの主人は、なぜか笑いをこらえきれない様子だ。
 トーノは、昔、ヤンドンに定住している人間はたいていクセがあるから注意しろ、と忠告されたのを思い出さずにはいられなかった。
「とにかく今日は一日ゆっくり休みましょう。仕事探しは明日からってことで」
 リヴはふうっとため息をついた。せっかく再会したユルグをあっさり逃がし、ユルグの情報がゼロという振り出しに戻ってしまったことへの落胆は、そう感嘆にはぬぐえない。
「そうだね」
 三人は、それぞれの部屋に荷物を運び始めた。
 リヴは、ヤンドンですべきことを、もんもんと考えた。
 金稼ぎ。武器のメンテナンス。買い物――各地から流れてくる品で掘り出し物があるかもしれない。
「ああ……。何するにもお金、お金」
 リヴはベッドにばったりと倒れこんだ。
その頃ウィルは、久々に広々としたベッドに寝られる、とはしゃいで、ダブルベッドの上で跳ねていた。
「なんでダブル……」
 トーノが呆然と突っ立っているのにも構わず、ウィルはベッドをトランポリン代わりにはしゃいでいる。
「おい……。半分は俺の領地だっっっっ!!! リヴに今日はゆっくり体を休めろ、って云われただろう!! ……ウッ」
 叫んだせいで、ウィルにやられた傷が開いた。
「な、なんだよぅ! トラップのことなら謝ったじゃんかあ!!」
 そんなこんなで、今夜はもう寝ようということになり、二人の部屋の明かりが消された。
 月明かりがまぶしい夜。ウィルはこんな日は決まって寝付けない。
 徒然に、今まで起こったことを思い返す。トーノとの出会い、リヴとの出会い、初めての戦闘、助けられたこと、楽しかったこと――旅に出て一週間で、様々なことがあった。
「ね、トーノ。起きてる……?」
「……」
「トーノの探してる指輪って何? アイリって誰?」
「……」
「……いつか教えてくれるよね。オレやリヴに……」
「……」
「……おやすみ、トーノ」

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